森の胡弓誕生物語

森林組合、研究者
三味線屋がチームを組んで創り上げた
新しい和楽器

01 おわらの里と伝統楽器の課題

富山と岐阜の県境から、車を30分ほど走らせた中間山地にある富山県八尾町。ここには、江戸時代から唄い継がれる古謡「おわら節」がある。哀愁を帯びた音色で、唄の旋律と寄り添う伴奏楽器が、和楽器で唯一の擦弦楽器「胡弓」である。

同じく伝統楽器である「三味線」を小さくしたような胡弓は、紅木や花梨と呼ばれる輸入材に、主にアジアで採取した動物の皮を張り、黒檀の糸巻きで強く引っ張り上げた絹製の糸を、馬毛を張った弓を擦りつけることで発音する。日本古来の和楽器でありながら、その部材のほぼ全てが国外産。三味線とて事情は同じ。海を隔てた異国で育った原料が、日本古来の音を奏でているのが現状だ。

02 日本の材質を使った、挑戦

日本の音を、日本の木で奏でたい。日本の森で育った木だからこそ出せる、故郷の音があるのではないか?そんな思いから、森の呼吸の開発は始まった。材料として選んだのは、日本発祥の針葉樹林で、古くから暮らしに身近な「スギ」。こと富山には、冬の風雪に耐え強度に優れた「立山杉」があり、おわらの里である八尾町にも、多く自生する。「富山の空気で育った立山杉が、胡弓として生まれ変わり、富山民謡の越中おわら節で、郷土の心を奏でる」。そんな物語を夢見て、森林組合と研究者、そして、株式会社楽家がチームを組んだ。

03 材料と響きに、粘り強く挑み続けた

強度が求められる棹に、また響きが求められる胴に、それぞれスギのどの部分を使えば効果的か?等、実験は繰り返された。もっとも苦労したのは、通常は動物の皮を張る共鳴部。薄く加工すれば、響きはよいが割れやすく、厚いと響きが鈍くなる。目の前の課題を少しずつクリアしながらの制作が続いた。

04 「森の胡弓」の誕生

より多くの人に胡弓の魅力に触れていただきたい、という思いから、コストをいかに下げるか?という課題にも取り組んだ。伝統的なデザインと一線を画し、制作コストを下げた廉価版をあわせて発売。半円形のボディーから「HACO(ハコ)」と命名。伝統的なフォルムを受け継ぐ「WACO(ワコ)」とともに「森の胡弓」シリーズとして完成させた。

日本の音を、日本の木で奏でたい。
日本古来の擦弦楽器の音色で、この国に生きる素晴らしさを感じて欲しい。