おわら胡弓と風の盆は「不治の病」

かたる

津軽三味線奏者の高橋竹童さんは、自身のワンマンステージでは「越中おわら節」を必ずといっていいほど演奏し、軽快なトークとあわせたメリハリのある展開で会場を沸かせる。

30年にもわたって通い続ける富山県八尾町や、おわら風の盆との関わりを中心に、おわら胡弓の魅力について話をうかがった。

インタビュー

自身のコンサートでは、津軽三味線だけでなく、胡弓や沖縄三線、尺八も演奏し、多彩な才能を発揮する竹童さん。様々な楽器を弾き分ける竹童さんならではの視点で、胡弓の魅力について語っていただいた。

胡弓の魅力は、理屈じゃない、何か。

自身のステージで胡弓を演奏する竹童さん

胡弓の魅力? ですよね。それが分かっているようで、実は分かっていない。説明しろと言われると意外に難しいんです。私の現状を言いますと、私の津軽三味線コンサートで、1曲だけ胡弓で越中おわら節を弾く、ということはつまり、9割は津軽の曲を弾くわけですよね。ところが、終わったときの評判は、圧倒的に「胡弓が良かった〜」なんですよ。私としては喜んでいいのか、どうなのか(笑。さらにいうと、評判が良いからと再び公演をセットしていただいたとして、その際に必ず「今回も胡弓はありますよね?」と念を押されます(笑。これは一体、どういうことなんでしょう???

何が魅力なの?って、知っている人いたら教えて欲しい感じがしますけど、理屈じゃない、何か感じるとこがみんなあるんでしょうね

前にこんな話を聞いたことがあります。秋になると虫の音がするでしょ。これを楽しめるのは、世界中で日本人だけだそうです。外国の人には、虫の音は雑音にしか聞こえない。日本人のDNAなんでしょうか、五感ではない、別の何かがあるんですよね。胡弓の音色にも、そんな魅力があるような気がします。

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特に八尾のおわら胡弓は、地唄胡弓の音色とはまた違います。独特の八尾らしい何か。そこに秘密があるんじゃないかなあ。

これを「風の盆」に置き換えてみると、これはまさに「不治の病」なんです(笑。
日本中にいろんな有名な行事やお祭り、フェスティバルありますが、大体のものは一回行けば満足するでしょ。でもおわらは違う。来年も、再来年もとなる。一回行って、罹(かか)っちゃうと、もう治らない。

そこで「おわらの何がいいんだろう?」って、一生懸命考えようとしても、明確な答えがない。
「テンポが胎内にいる時に似てる」とか、何かしら想像して言うけど、「これだっ!」っていう答えは、おそらく誰も見出せないんじゃないかなあ。逆に「分からないからまた来ちゃう、理屈じゃないから来ちゃう」とかね。胡弓の魅力も、そんな感じだと思います。

竹童さんにとって、胡弓=おわら胡弓。30年以上通い詰めるだけあって、胡弓の話のつもりが、いつの間にか風の盆の話に変わっていく。そんな風の盆が大好きな竹童さんに、おわらとの出逢いと、胡弓をはじめたきっかけについて伺った。

胡弓の音色に「涙があふれてきた」

おわら胡弓の大先輩・橘賢美さんとともに。

まだ20代かけ出しの頃、宴会のゲストとして山中温泉の老舗旅館で演奏させていただいたとき、同じくゲストとしておわらの方々が出演されたんですね。その時に聴いたおわらが、今まで知っていたおわらとは、全く違って聴こえたんです。「どうしてこんなに切ないんだろう」って耳を塞いで「やめてくれ〜」っていうくらい、涙があふれてきたんです。その理由は「胡弓の音色」にあっただったです。

その時に胡弓を弾いていたのが、後に私の師匠となる長谷川誠治さん。同年の風の盆に、どうしても長谷川さんに逢いたくて、探しに行ったんです。夜流しの時でした。静かな町に響く胡弓の音色を聴いて「長谷川さんの音だ!」って、わかりましたね。

ご挨拶させてもらったら、夜流しのあと公民館にあがらせてもらってね。「竹童君が来てるんだったら津軽三味線を聴かせてもらおうよ」って感じになったんです。べべべ〜んですよ。観光客にしてみたら「この町何やってんの?」ってなりますよね(笑。そしたら次に「どうじゃ、胡弓も弾けるんやろ」ってなった。胡弓を手渡されて、誰か三味線弾け〜、誰か唄え〜って、返事もしないうちに、ハイヨッ、トンツンキュー!みたいな感じですよ。私の胡弓で、もう公民館中、大笑い。こっちは油汗やら、冷や汗かいてやってるでしょ。だけどね、まるっきり弾けない素人だったら笑えないじゃないですか。笑えるというのは、弓の押し引きみたいなところはメチャクチャだけど、きっとリズムやツボはそれなりだったのではないかと。そのチグハグな感じが、絶妙に面白かったでしょうね。

今年も来られんか〜、から早30年

毎年「町の人」としておわらを楽しむ

最初は、竹与さん(現、二代目高橋竹山)が「使ってない胡弓がある」っていうから、それをいただいてはじめたんです。弓は、自分で竹を曲げて、馬の尻尾を束ねて、自作の弓を使ってはじめました。まだ内弟子時代だったので、初代の竹山は「その胡弓ってものを練習するときだけは、ちょっと奥の部屋でやってくれないか〜」って(笑。よほど勘に触ったんでしょうね。


公民館での一件からほぼ一年経った8月の頭に、「どうじゃ今年も来られんか〜」って、長谷川さんから電話ががかかってきました。「ぜひ行きたいです」って言ったら、「もし時間あるんだったら、早めにきて練習しられ」となったんです。そこで朝9時から、気がついたら夜7時まで!みっちり。ご飯も食べない感じで、集中してつきっきりで教えていただいきました。そしたらその年の風の盆で、町の総代が「お稽古お疲れ様です。ちょっと竹童さん、前に出てきてください」ってなった。また叱られるんかな〜って思ったら「これ着てください」って、浴衣を手渡されたんです。「え〜っ、町の人以外ダメじゃないですか!」って言ったら「あんたもう、街の人だねか」って。その時はもう感動して、ワンワン泣けてきましたね。「袖一回通したら、途中でやめるわけにいかんがんぜ。半端なことしてくれんなよ」って。任侠の世界か!と思いましたけどね(笑。 

おわらとは、そういう出逢いでしたね。そこから早、30年が経ちました。

自作したのは弓だけでなく、胡弓の駒も自身による手づくり。竹童さんが制作した胡弓竹駒はバラエティがあり、愛用する人も多い。

駒は自分で作るもの、本当に音色が変わる

初代高橋竹山に内弟子に入ったのが18歳のとき。三味線どころか、何も教えてくれない竹山が、まず私に言ったのが「おい竹童、三味線の駒つくれ」だったんです。もちろんそれまで、作ったことないですよ(笑。「あー大丈夫、大丈夫じゃ。若いからできる」って言うわけです。それでホームセンター行って竹と彫刻刀を買ってきて、三日かけて削って、いびつな駒、つくりました(笑。竹山が言うのは「市販の駒はみんな細くて、音が貧弱で嫌。どこ探してもないから、お前作れ」ってわけです。

竹童さんが自作する胡弓竹駒

師匠の竹山は、お土産を持って誰かが訪ねてくると、「じゃあお前さん、やるよ」と言って、駒をあげちゃう。「先生、いい駒使ってますねー」って言われたら、すぐにピクっと反応してあげちゃう。そうすると、また作らなきゃいけない。そんなこともあって、とにかく駒はたくさん作ってきました。より精度を高めるために、道具や機械もそろえました。この経験のおかげで、八尾に来た時に「駒作れ」って言われても、驚かずに済みました(笑。

八尾に来てからは、名人のモデルを研究して、時代によって、弾く時間によって、竹のどこを削ったらどんな音になるか、いろいろと研究しました。駒ひとつで、本当に音色が変わるんですよねえ。内弟子に入ったときに「駒作れ」って言われたのも、きっとそういうことだったんだと思います。ただし、その駒が良いか悪いかは、奏者次第。耳はみんな違うので、究極的には、駒は自分で調整するものと思います。

僕の駒は、厚さが基本0.8mmくらい。竹をそこまで削るのは、すごい労力。削りに削って、やりすぎると割れるでしょ。最後に割っちゃうことも、よくあります。三味線も胡弓も、二つと同じものはない。「鳴る駒を手にしたら、親兄弟でも渡しちゃダメ」って言うんですよ。鳴るコマは、そう手に入らないんで、絶対に温存にしておきなさいって言うわけです。

津軽三味線奏者を目指して修行中の身でありながら、胡弓もはじめた竹童さん。津軽三味線とおわら胡弓の二刀流は、最初は苦労も多かったようです。

おわらの胡弓は刺身のツマ

津軽三味線は個人プレイ。だから胡弓をはじめた頃は、胡弓もちゃんと一人で成立しなきゃダメって思い込んじゃいました。胡弓は胡弓でちゃんとやるみたいな。ところが、これが間違ってたんですね。

おわらの胡弓は刺身のツマなんだから。メインのマグロじゃねえんだぞ」って、言ってくれた人がいるんです。津軽三味線では、マグロになろうとして弾いているのに、八尾では「お前、刺身のツマになれ」っていう訳です。難しくないですか! 
こんなことも言われました。「町の縁中(えんなか)に水がチョロチョロ〜と流れとろう。あの音よりも、胡弓は小さくなきゃダメよ」って。難しいよねえ。「ドーナツの穴あるでしょ。でもないでしょ。そんな感じ」て。「もう難しい!」禅問答みたいなもんですよ。

だから毎年おわらで八尾に入る時は、津軽三味線奏者の高橋竹童は、いつもどこかに置いてきて、いち町民になったつもりで過ごします。最初の年の一件以来、八尾では津軽三味線を弾かない、と決めてます。

さて、当初のテーマ「胡弓の魅力」について、わからない?なりに、ひねり出していただきました。和楽器に精通する竹童さんだけあって、その言葉には説得力があります。

心が落ち着く、穏やかになる。それが、胡弓の魅力

正直「ピアノやってます「バイオリンやってます」って聞いても、あんまりびっくりしないじゃないですか。ところが「津軽三味線やってます」「おわら胡弓やってます」って言うと「えっっー」て、なりますよね。

日本人なんだから、本来は和楽器やってて珍しくないはずなのに、バイオリンとかピアノの方がスタンダードになっちゃってるっていうのも、ちょっと日本は悲しいかなって感じはします。

そんななかにあって、胡弓はなんといっても、音色が優しいじゃないですか。津軽三味線は、もう怒鳴られてるような、ガンガン鳴って、血が騒いできたりっていうのがあるけど、胡弓は本当に癒しになる。唄は長く声を伸ばしますが、音色が伸びる胡弓はその声の代わりにもなる。胡弓を聴いて、心が乱れるってことはないと思うんですよね。

心が落ち着く、穏やかになる。そが、胡弓の魅力かと思います。

基本情報

高橋竹童(たかはしちくどう) 1970年4月19日・新潟県新潟市南区(旧 西蒲原郡月潟村)生まれ

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■教室情報

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