右手にもった弓を擦り付けて発音する楽器を「擦弦(さつげん)楽器」と呼びます。
胡弓は、日本の伝統楽器のなかで唯一の擦弦楽器というわけです。
世界へ目を向けると、バイオリンが擦弦楽器の代表的存在といえるのではないでしょうか。
バイオリンよりひと回り大きのがヴィオラ、さらに大きいものがチェロ、さらにはコントラバスとなります。バイオリンについで人気があるのが、チェロ。「チェロ弾きのゴーシュ」をはじめ小説や映画にも登場するなど、その魅力に魅了された方も多いのでは。
そのチェロ奏者と共演したときの話です。
胡弓&チェロ、擦弦という共通点
江戸時代から日本にあった、とされる胡弓ですが、謎の歴史や空白の期間が長く、充分に研究されているとはいえないところがあります。
「歴史が長く、日本にもファンが多いチェロには、胡弓に活かせるテクニックや理論があるのでは?」と思っています。楽器を立てて演奏するところ、そのため、弓を左右に振るところなどが、胡弓との共通点がいくつかありそう。そう思っていた時に、とあるチェロ奏者から連絡をいただきました。
主旨は「胡弓を演奏してみたい。体験レッスンできますか?」といったところ。
聞くとご自身は都内にお住まいだが、ご両親がなんと!今は富山にお住まいだとか。
名前は畑野光恵さん。ヤマハ音楽教室や、山野楽器でチェロの教室をお持ちのプロ奏者。メールで連絡をとりあっているうちに、楽家が都内でライブをする機会を案内すると、なんと!会場までいらっしゃいまして、我々のライブをご覧になるなど、とてもフットワークが軽いお方。これは!と思い、さらに調子にのって「一緒にライブをやりませんかー?」と打診したら、なんと!こちらも快諾が! 月に1回はご両親が住む富山で過ごすということで、その機会を狙って、富山でライブをすることが決まりました。擦弦楽器、という共通点だけで繋がって、トントン拍子でライブが実現。こうやって、胡弓の新たな可能性を富山の人々へ紹介する絶好の機会を得ました。
胡弓の先生になって欲しい!
さてその畑野さん、早速に胡弓をお買い上げになって、直ちに!胡弓をマスターされました。
この辺りのフットワークも素晴らしい畑野さんです。胡弓とチェロは、右手に弓を持つのは共通としても、馬毛がピン!と張った状態で演奏するチェロと異なり、胡弓の弓は馬毛の張りが弱く、弓をもった右手の指でテンションをかけたり緩めたりする必要があります。
そこをマスターするのに少し戸惑ったようですが、弓の捌き方や左手の運指はお手のもの。1を聞いて10を知る的なスピード感で胡弓をマスターされました。和楽器業界を代表して言いますが、胡弓の先生になって欲しい!と熱望するばかりです。胡弓の講師になってくれるチェロ奏者を募集中です(笑)。
さて話を戻して、ライブは畑野さんがゆっくり帰省できるGWに決定。
東京教室の帰路に畑野さんを拉致!するように富山へ連れて帰ったりしながら、車中で打ち合わせしたり、畑野さんのご両親がお住まいの南砺市で練習をしたり、と時間を重ねていきました。
その過程で色々と学んだこととしては、チェロやバイオリンといったヨーロッパの楽器は、まず左手のポジションを徹底的に叩き込むということ。はじめのころは、スケールの練習を死ぬほどやるそうです。胡弓にも取り入れたいところですが、その場合、駒の位置、そして調弦を固定するといった楽器自体を安定させることが前提となります。和楽器の概念である柔軟性や多様性とどう共存させるか?が課題となりそう。さらに大きな違いは、チェロには五線譜があること。。そう、日本全国の小学校教育に取り入れられ音楽嫌いを増やすのに貢献しているあの、五線譜です。。って、ごめんなさい、嫌味たっぷりでお伝えしたのは、この筆者である私が、五線譜が読めないから。楽譜が読めないので、楽譜が必要ない和楽器に救われたクチ!です。ところが、洋楽をやっている方は、楽譜至上主義(ごめんなさい、どうしても嫌味な口調。いや、これも日本の学校教育が悪いと思ってます)。ところが畑野さん、とても柔軟な方で、われわれが「あーしたい、こーしたい」とイメージで伝えることにしっかりと耳を傾けて、思いを汲み取り、形にしてくれるので、なんと!ありがたや。こうして、
一進一退、いや、一進二進と形ができあがり、当日を迎えることとなるのでした。
和洋の楽器はどんどんコラボすべき
当日のセットリストは以下の通り。
和楽器が洋楽器とコラボするとき、和楽器が洋楽器に寄せていく場合が多いのですが、和楽器寄りの選曲が成立したのは、ひとえに畑野さんのおかげです。
チェロの旋律をイメージしながら、セットリストをご覧ください(笑。
こきりこ節(★)
黒田節(★)
秋田荷方節 & りんご追分
福光めでた
star of the country down(★)
ルパン3世のテーマ(★)
無伴奏チェロ組曲
ジョンライアンズポルカ
風の通り道(★)
越中おわら節(★)
トモダチノトリ(★)
カントリーロード(★)
(★)胡弓とチェロとのセッション曲
序盤は和楽器寄り、中盤を少しずつチェロに寄せて、最後はひとつになる!?的な世界観をイメージ。われわれが民謡畑ということもあり、どうしても民謡に寄った選曲にはなりましたが、アニソン、ジブリ、クラシック、アイリッシュ、オリジナルと、ほどよく散らした舞台となりました。
なかでも胡弓とチェロがからんだ「風の通り道」は、繊細な胡弓の旋律と、厚みのあるチェロの重低音が絶妙にからみ、はじめて聴く世界観を醸し出していたかなあ、なんて思いました。
そして、胡弓の醍醐味を存分に発揮した「越中おわら節」で盛り上がりは絶好調に。当日は三味線もあわせて3人でやった曲がほとんどでしたが、2つの擦弦楽器の共演は、それぞれの特長を際立たせる素晴らしいアンサンブルとなりました。
洋楽器との共演でいつも考えさせられるのは、和楽器がもつ曖昧さを排除して、洋楽器のような安定感にどうもっていくか、ということ。
胡弓は駒の微妙な位置や糸の状態によって、ピッチが微妙に変化するが、その不安定感が味わいだったりもします。ところが、安定して発音する洋楽器と一緒に弾くと、それは味ではなく「不安定感」として耳に届く場合が多く、和楽器奏者はその都度、ピッチを微妙に調整しながら演奏することが求められます。
胡弓はスケールが短いぶんピッチが狂いやすく、会場の環境の影響を受けやすい楽器といえます。一方のチェロは、安定したピッチと鍛え上げられた音感でピタリとスケールにはまってきます。なので、チェロの旋律に耳を傾けていれば、自信をもって音を捉えることができたなあ、というのが、今回の感想。洋楽器とコラボしたら、音感が鍛えられるような気がします。和楽器と洋楽器はこれからもどんどんコラボして、和楽器のいい点をどんどん引き出していって欲しいところです。
洋楽器のみなさん、一緒にコラボしましょう。そして、畑野さん、ありがとうございましたー。