リモートのメリットとデメリット

ならう

コロナ禍で一気に広まった「リモート」。当初は接触を避けるためにやむなく…と考えられていましたが、用途によっては、むしろリモートの方がいい、という場面も増えています。
では胡弓の、さらには和楽器の「リモートレッスン」の場合は、どうでしょうか? そのメリットとデメリットを検証します。

お稽古ではなく、レッスン

和楽器や武道を習得する際には「お稽古」という言葉が使われます。「お稽古」という言葉がもつ意味を調べてみると、

古(いにしえ)を稽(かんがえる)という意味。
先人の教えについて工夫、研究するということであり、それについて「考える」こと。

単なるレッスンや習い事と違って、古くから伝わる先例を学び、ものの道理や決まり、習わしについて「考える」という意味が多分に含まれています。
確かに、和の習い事は、大いに「考える」必要がありました。なぜなら「見て」学ばなければいけなかったからです。和の伝統に関わる人々は、そのやり方や方法論について誰も教えてはくれなかったのです。いわゆる「習うより慣れろ」の世界。とにかく見て、考えて、慣れることにより習得するしか、かつてはなかったのです。
和楽器についても然り。師匠の手をみて、音を聞き、考えながら真似をすることによってのみ、芸を手に入れることができました。


しかしこれも、昔の話、になりつつあります。
まず「文化譜」なるものが登場したことにより、師匠の手の動きが紙の上に数値化されました。その数値をより合理的に記録するために「譜尺」が登場し、これまでリアルな動きとして聞いて、目と耳で学ばなければ理解できなかった音の流れが、数値として記録され、誰もが反復できるようになりました。このことにより、和楽器でも「リモート」で習い事ができる前提が整った、というわけです。

三味線の楽譜として一般的になった「文化譜」


実際のところ、昨今はリアルなお稽古でも、師匠の手を見ずに、譜面と譜尺をにらめっこしている生徒さんが多いように思います。情報過多な時代に「頭で考える習慣」がついちゃっているのか? あるいは、義務教育の現場で譜面を読み解く習慣がついてしまったか、リアルな動作を「見て」。音を「聞く」ことによって学ぶ能力が衰えている気がします。そういった意味でも、「リモート」を受け入れる土壌がすでにあったのかもしれません。


言うまでもなく、和楽器の醍醐味は、楽譜で表現できない音や間(ま)です。それらは、今も昔も、師匠と対をして「お稽古」することでしか得がたいものです。したがって、昨今のリモートで再現されるのは、お稽古ではなく、西洋由来の「レッスン」という表現が正しいのでしょう。お稽古ではなく「レッスン」であるとすれば、これまでなかったメリットが、リモートレッスンではたくさんあります。まずはそのメリットから見ていきましょう。

時空を超えて学べるメリット

例えば(私のような)地方に住んでいながら、長唄三味線を東京都在住の師匠に習うために通う、とか、津軽三味線を習得するため弘前まで通う、といったことは、今も昔も聞く話です。「通う」ためには、そのための交通費が必要です。しかも往復で。住んでいる場所によっては、この金額はお稽古代以上に膨らむわけで、「通う」たびに積算される交通費の金額は、いつしか楽器のそのものの代金をはるかに超える金額になります。お金だけでなく、往復にかける時間も必要です。遠方の先生に習う、ということは、お金と時間において、かなりの投資です。リモートレッスンは、このお金と時間が「節約」できるのが、最大のメリットです。自宅にいながらにして、どこに住んでいようが(国内であろうが、海外ですら!)PCやスマホ等のディスプレイを通して、先生が目の前に現れるわけですから、これはもう、魔法の世界です(笑。

海外ですら簡単に繋がれるわけですが、このメリットは遠方に限ったことでもありません。人と人がリアルに出逢おうとすると、当たり前に移動が伴います。3分であろうが、3時間であろうが、移動に関わる時間は、レッスンに自分の時間を投資していることに変わりはありません、リモートレッスンは、それがほぼ「皆無」です。だって、先生が目の前に現れるわけですから(笑。移動に変わるお金と時間を節約して、住んでいる場所に関わらず時空を超越して学べるのが、リモートレッスンの最大のメリットと言えるのではないでしょうか。


他にも、レッスン内容を録画できるというメリットがあります。録画内容を何度も見直して復習ができるというのは、レッスンにおける大きなメリットとなります。ただし録画の可否は、使用するアプリケーションや契約状況にもよりけり。そのほか、録画には先生の許可が必要ですし、録画内容の使い回しや二次使用等がないよう、教室間での取り決めが大前提となります。


録画に限らずとも「記録」という意味においては、リモートが有利です。対面で行われるレッスンでは、都度、メモをとったり、録音したりというのは、気が引けて好機を逃したり、先生や周囲に気を使って遠慮することがあります。もっとも対面レッスンは、「記録」ではなく「記憶」に頼る傾向があります。ところが、自宅に帰ってレッスン内容を思い出そうとしても、なかなか思い出せず身につかない、と損をした気分を味わう方も多いのではないでしょうか。その一方で、ディスプレイと対峙するリモートレッスンは、先生の目を気にすることなく、メモをとったり、パソコンのキーを叩いて大事なことを「記録」することができます。対面レッスンではなかなか気が回らない「記録」作業を、離れた場所では遠慮なくできる、というのも、リモートレッスンのメリットかもしれません。

最大のデメリットはタイムラグ

一方のデメリットについて、wifiやアプリ等の環境要因によって、レッスンのクオリティが低下するリスクがある、といったところでしょうか。レッスン途中で通信障害や、原因不明のフリーズ、なんていうことも起こりかねません。リモートレッスンの場合、通信の確認や不具合の調整に、少なくとも1回のレッスンにつき4〜5分は費やされる、と見積もっておくのがよいでしょう。運良く通信に問題がなかったとしても、そのようなリスクに常にさらされていることがストレスになって、レッスンへの集中力が下がるとすると、リモートレッスンは避けた方が良いかもしれません。

仮に最善の環境でレッスンが行われたとしても、通信を介在している以上、タイムラグはどうしても生じます。先生と生徒が完全に同じタイミングで演奏する、ということは、この原稿を書いている2024年4月現在においては、まだ叶わない状況です。仕事や日常生活で頻繁にリモートを使用している方も、レッスンにおいては通常とは異なるストレスが生じる、ということを念頭に置いておくことが必要です。
ただし、これも時間の問題かもしれません。リモートレッスンにおけるこれらのデメリットが解消されるのは、そう遠い未来でもないような気がします。

リモートと〇〇とのハイブリッド

メリットとデメリットを天秤にかけたとき、さて、あなたはどう考えますか? 現段階のリモート環境ではレッスンは成立しずらいのでリモートは無理、と考える方もいることでしょう。でも、ここでは、リモートのデメリットを補完することで、メリットを最大限に引き立たせ、リモートレッスンを有効に活用できる手段がないか?について考えてみましょう。
前述したいように、リモートのデメリットは、wifiやアプリ等の環境要因によって引き起こされるリスクです。では、それらを介さない「何か」とかけ合わせたハイブリッレッスンはいかがでしょう?

①リアルとのハイブリット
2回に1回、あるいは、半年に1回や年に1回でも、可能なときはリモートではなく、リアルでレッスンを受けるハイブリット。リモートでは確認できない、あるいは、とり逃がしている情報を確認しに行くことで、通信によって生じた不明点やストレスを解消。そのことで、リモートによるタイパ&コスパをさらに向上させることができます。

②リアル録画とのハイブリッド
先生がレッスンをしている現場で、その様子を録画していただく方法。ZoomやGoogle Meetsの機能に録画機能はありますが、これらは通信ソフトを介している以上、通信環境によるタイムラグと不具合もそのまま録画してしまいます。これを解消するには、先生側で録画していただくしかありません。レッスンのすべてを録画とまではいかなくとも、課題曲や大事なポイントなどについて、先生に録画していただき、そのデータを送っていただく、という方法とのハイブリッド。レッスン内容の復習や反復練習にも効果を発揮します。先生の協力が大前提。

③動画とのハイブリッド
先生によっては、前もって動画を準備しているところがあります。②のようにレッスン内容を録画するくらいなら、演奏動画を最初から準備しておくほうが得策、と先生も考えるわけです。動画があれば、リモートレッスンの前に予習して、不明点などをリモートで確認する、あるいは、リモートレッスンをした後に、課題曲を動画で復習する、といったレッスンが成立します。通信環境に頼らない「動画」という教材とのハイブリッド。

リモートのメリットが大きいと感じる人が増えれば増えるほど、そのデメリットを補完する「何か」が増えるかもしれません。その「何か」に、デメリットを補完するに余りあるくらいの効力があれば、リモートによるレッスンのほうが効果的、と思える人が増えるかもしれません。


いずれにしても、冒頭で述べたように、それらは「レッスン」であって、和楽器が古来から親しんできた「お稽古」でないことが前提。それぞれの方向性や考え方に応じて、お稽古がよいか、レッスンがよいか? さらには、リモートかリアルか?といった習得の方法を選択していかれるとよいかと思います。

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