胡弓は声鳴り、声で表現したいものをのり移さらせることができる

かたる

独立してさらなる境地へ

2021年、本條秀太郎氏から独立し「﨑秀五郎」として新たな道を歩みはじめた。


本條氏の脇を務めた長きに渡り、三味線だけでなく、胡弓の音色で我々を魅了し続けてきた秀五郎さん。


独立以後は自宅のある台東区を本部に、トッププレイヤーとしてさらなる境地に挑み続けている。

インタビュー

国内外での演奏活動をはじめ、テレビドラマで和楽器の演奏シーンがある俳優さんたちの演奏指導を行ってきた秀五郎さんに、幅広い活動の中での面白エピソードを聞いてみた。

NHK大河「龍馬伝」では、龍馬役の福山さん、高杉晋作役の伊勢谷さんに、三味線の指導をさせていただきましてね。慣れない三味線を弾きながら演技するわけだから、相当に大変なわけですよ。女郎屋で三味線を弾きながら酒を飲むシーンがあったんだけど、「左手で盃をもって飲んで、それにあわせて、右手だけ動かしていりゃごまかせるから」なんて指導したら、右手は弾かずに酒ばっかり飲んでいた、なんてこともありましたねえ(笑。

NHKの時代劇で、胡弓を指導したこともあります。やはり女郎屋のシーンで、太夫の位の遊女が、しずしずと胡弓を弾いているシーンでしたねえ。胡弓の弓には大きな房が2つあって、とても豪華なものでした。

海外の管弦楽と一緒に演奏したとき「どうして胡弓を演奏中にクルクル回すんだ、行儀が悪いんじゃないか?」って聞かれたことがありましてね。「これは行儀が悪いわけじゃない、日本人は姿勢を静にすることで美しいとされている人種なんだ、と答えました」(笑。

三味線は石のように構えて、水のような音をだす、というのが日本の口伝に残っているくらいですし、太鼓にしたって、演奏している手だけが動いているでしょ。

演奏するためにアクションは必要ない、むしろ、それが削ぎ取られたからこそ、日本人の美学として生きているんじゃないかと思ったから、姿勢は一切動かさず、胡弓をクルクル動かすんだって言ったら、「It’s Cool」って言ってました(笑。

自らがテレビ出演される際は、三味線だけでなく、胡弓を弾くシーンが印象的な秀五郎さん。教室ではどんなことを教えていらっしゃる?

胡弓が旋律に優しさをプラスする

端唄に胡弓を入れたりしますねえ。端唄の旋律のなかに、胡弓の優しさをプラスすることで、小難しい端唄の曲でも、マイルドになるんですね。単音しか出さない胡弓が、三味線と合わさることによって、アンサンブルを感じる。弦楽器同士で響き合うというのが、僕はすごくいいと思いますねえ。

端唄のなかに胡弓が使われてきた歴史はないとは思います。ただ、吉原の遊女の、位が高い太夫くらいになると、胡弓を演奏する絵が残っています。

太夫たちが端唄という文化を作ってきったのだとすると、あしらいで胡弓を弾いていたとか、三味線とのアンサンブルもあったんじゃないかと想像できますよね。映像や音源が残っているわけではないので、あくまでも想像ですが、そう考えるのは、夢があっていいんじゃないですかねえ。

和楽器の歴史を振り返ると、なぜゆえに胡弓が必要になったか、ということですよねえ。だって、笛のほうが昔からあったんだもの。そこに胡弓というものが後から加わったということは、日本人の耳に擦弦楽器の音が必要だった、ということかと思います。

18歳で本條秀太郎氏のもとへ内弟子に入られた秀五郎さん。23歳頃に「お前、胡弓やってみれば」という師匠のひと声からはじめた胡弓は、秀五郎さんの芸能生活にどんな変化をもたらしたのでしょうか?

胡弓によって心の持ち用が変わった


本條先生の作品に「おわら」をモチーフにした作品があって、最初は「俺は三味線を弾くから、お前胡弓やれ」といった具合です(笑。三味線ができるからっていって、胡弓ができるかといえば、そんなことはなく、ひと筋縄ではいかない楽器だな、っていうのは感じましたねえ。実際に指導するようになってからでも、それは思いますねえ。

胡弓は弓を動かしている限り音がでますが、三味線はそうではない。一般的には、胡弓は弓で弾く継続音、三味線は撥で叩く単音、という点において、違いますよね。

ただし、胡弓で継続音の感覚を培うと、三味線の撥音も単音じゃなくなる、撥を鳴らしたらそれで終わりか、といえばそうではなく、その後の余韻が大切。胡弓を演奏することで、その余韻を活かすことができる、という発想になりました。音を鳴らしておしまいという世界が取り払われちゃった。

ひと音の継続音に、より一層目覚めたといいますか、鳴らして終わりじゃないんだなあという、心の持ち用が変わりましたねえ。三味線のためにも、胡弓をやってよかったなあっていう、今思えば、そんなような胡弓との出会いだったかもしれないですねえ。

お稽古場を見渡すとサイズの異なる胡弓や三味線が色々。さまざまな試みに取り組む秀五郎さんが目指す世界観は、どんなところにあるのだろうか?

胡弓のアンサンブルを楽しみたい

左から小・大・バス胡弓。

最初に買ったのは、この小胡弓。弾きはじめた頃は本條先生からお借りしていたんですが、いつまでも借りっぱなしではいけないと思って、オークションで買い求めました(笑。

独自にアレンジしたバス胡弓。

この「バス胡弓」は、神奈川県の子守唄「いかとり唄」を胡弓でアンサンブルするのに作ったんですよねえ。糸をより振幅させるために、二番三味線の「中棹」を足して長くして、あんまり長いもんですから、琴の糸をはりました。長い方が存在感あるでしょ(笑。皮はどこへ相談しても断られちゃって、自分で「紙」を張りました。

小胡弓もあれば、おわら胡弓のような中ほどの胡弓もある。胡弓でも大、中、小といったことで、アンサンブルを楽しめる。こういう試みをしています。胡弓のオーケストラというのができたら、これはまた面白いかもしれませんね。

自分の色をだしてこそ継承になる

自分は胡弓の古典を習ったわけでもないですから、こんな色々な試みをやるなかで、胡弓の入り口的な立場で普及に務められたらいいかと。そして「もっと本格的にやりたい」ということになったら本格的な方を紹介して続けていってもらったら、胡弓の普及に繋がるんじゃないかなあ、と思ってます。

僕に習っているからっていって、僕の通りに弾きなさいということじゃなくていいんですよ。僕は2人目いらないんですよね。僕に習ったお弟子さんというのは、そのお弟子さんの色を出してこそ、それが継承になっていくと思うので、思い思いの音の出し方があっていい。

だから僕は教えるのは、あくまでもベーシック。演奏するうえでの三味線人として、そして胡弓人としての人間の美学というのも含めてね。そこから先は自分の音楽にして、どんどん自分の音楽を突き詰めて欲しい

そして、人に聞いてもらうことをたくさんしてもらいたい。1曲でも弾けるようになったら、その弾けるようになった1曲を、誰でもいいから、誰かに聞いてもらって、胡弓をどんどん広めてもらいたいなあ。

本部教室。襖を開けると飲食店に直結、教室がステージに。

素敵なお話、たくさん伺いました!改めて「胡弓の魅力」って何ですか?

音色がね、胡弓は声鳴り、なんですよね。自分が鳴らしたい、声で表現したいものを、胡弓にのりうつさせることができるんですよねえ。

あんなガサガサした、摩擦で音を鳴らすんだけれども、おさえ方、圧力の掛け方、訴え方、強弱によって、声のように表現できるという、とても魅力的な楽器だと思います。だから、胡弓は大好きです。

基本情報

﨑秀五郎(さきしゅうごろう)・1975年11月25日・愛知県名古屋市生

問い合わせ・メール shugorosaki@me.com

■教室情報

本部教場 東京都台東区

銀座教場 東京都中央区銀座1丁目

大阪教場(大阪府大阪市内) 愛知教場(愛知県名古屋市内)高松教場(香川県高松市内)熊本教場(開設準備中)

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