津軽三味線、篠笛、鼓、ヴァイオリンを融合させた「竜馬四重奏」で活躍する津軽三味線奏者の雅勝さん。自身のYou Tubeチャンネル「Shamisen player Masakatsu 雅勝」では、胡弓の演奏も披露。三味線とのメリハリが効いたアレンジを聴かせてくれる。
実は雅勝さん、自身が加わるユニット「東京最前線」や「HALE to KE」の中では、三味線だけでなく胡弓をプレイ。胡弓中心のオリジナル曲もつくっている。津軽三味線奏者として独自の境地を切り開く三味線プレイヤーだけあって、胡弓に取り組む思いも、かなり熱いものがある。
インタビュー
津軽三味線プレーヤー雅勝さんが胡弓を弾きはじめたのは、コロナ禍でのこと。胡弓との出逢いについて、ロックバンド時代や民謡酒場での修行時代まで遡って、思い出してくれた。
チャンネルに新しいエッセンスが加わった
一番最初の胡弓の記憶というと、若林美智子さんのCD「哀の調べ~風の盆の里より」ですね。民謡酒場での修行時代のことと思いますが、当時は民族音楽に興味があって、色々と勉強していた頃だったと思います。その頃にNHKのハイビジョンドラマ「風の盆から」も観ました。八尾を舞台に、松本幸四郎さんが主役で描かれた2時間ドラマです。その時は胡弓という楽器自体にフォーカスしたわけではなく、色んな楽器を聴いてるなかのひとつって感じだったんですが、なんとなく記憶に残っていたんでしょうね。
津軽三味線に出逢う前、20歳ぐらいまでは、ロックバンドでギターを弾いてました。ミュージシャンになりたい、と取り組んでいましたが、津軽三味線を見た時に「この楽器でやっていこう」と思って、22歳から「ことぶき」で4年間修行しました。それまではポップス、ジャズ、洋楽とか、何でも聴いていたんですが、大阪修行時代は、民謡だけ聞いて過ごしました。その後は、浅草「みどり」で4年間修行。20代は、ほぼそんな感じでした。
胡弓を買ったのは、今から10年ほど前に遡ります。「越中おわら節を弾きたい」と思って、中古で手に入れました。弓で糸を擦っても音が出なかったので「どこかで習おう」と教室を探したんですけど、いわゆる古典の地唄胡弓を教えるところはあっても、「越中おわら節」の胡弓を教えてる人がいなくて、そのまま放っておきました。
そうこうしているうちにコロナになって暇になったとき「そういえば、胡弓あったな」って思い出しました。10年前に買ったときは音が出なかったのですが「松脂を馬毛に塗れば音が出るらしい」ということがわかったのはそのときでした。竜馬四重奏でヴァイオリンとバンドやってるのに、そんなことも知らなかったから、笑えますね(笑)。
とりあえずは簡単なポップスを弾いてみよう、と弾いたのが「涙そうそう」。それをYou Tubeチャンネルにアップしたのは、胡弓をはじめて1〜2カ月ほど経った頃だったかと思います。アップした時は、ファンの人から「胡弓弾くんだ!」みたいな、驚きのリアクションがありましたね。胡弓があることで、今までできなかったバラードの曲ができるようになったりして、コンテンツに新しいエッセンスが加わりました。
わずか1〜2カ月にしてYou Tubeで楽曲をアップするほど胡弓を弾きこなす雅勝さん。習得するコツや苦労話について話をうかがった。
ワインのように熟していけばいい
三味線と一緒で、胡弓も楽曲のキーにあわせて調弦しますよね。そのためビギナーは「キーはどこ?」みたいなところからはじまるところなんですが、それがわかるぶん、洋楽やポップスのアレンジにおいてアドバンテージはあったかなという感じがします。胡弓は棹が短いぶん、ツボもつかまえにくいとこがあります。とはいえ何よりも、コロナ禍で時間はいっぱいあったので、たくさん練習できた、というところでしょうか。
胡弓を弾いていると、楽器をやり始めた頃の気持ちを思い出すというか、まるで三味線はじめた頃みたいな、常に発見があって楽しいですよね。始めた頃って「伸びしろ」があるじゃないですか。「こんなことができる!あんなこともできる!」みたいな。あとは今、You Tubeとかあるので、便利。何回もくり返し見返しながら「何が違うんだろう?」なんて考えながら、新しい楽器を追求していく面白さを胡弓を通して味わっているみたいな。僕が三味線を始めた頃と違って、いろんな教材があるから、成長の度合いみたいなものも当時とは違いますよね。
まあ、練習して上手くなるには上手くなるけど、楽器はキャリアが追いついてこないといい感じにはならない。何年もやっていくことで、どんどん味が出てくるというかね。三味線をはじめて1年2年で上手くなる人も、今は全然いますけど、キャリアから出てくるものって、絶対あるんですよね。だから僕も焦らず、長い時間をかけながら、ワインのようにいい感じに熟していけばいいと思っています。
ともにメンバーとして活動するユニット「HALE to KE」では二胡奏者と、「竜馬四重奏」ではヴァイオリン奏者と活動をする雅勝さん。二胡とヴァイオリンという2つの擦弦楽器と一緒に音楽制作に取り組む雅勝さんならではの視点で、胡弓の魅力を分析してもらった。
胡弓は歌える楽しさがある
何といっても、音色が最大の魅力ですよね。二胡でもなく、ヴァイオリンでもない、あの独特の音色が魅力。
二胡は鳴った瞬間に中国って感じがしますね。よくも悪くも、すごい主張があるなっていうのが二胡。
同じことを尺八にも感じます。他の国に無いんですよね、ああいう音って。かすれ具合とか、音を一瞬でその世界にしてしまう主張はすごい。
尺八ほどではないけど、胡弓もそれに近い要素があるんだけど、認知度、イメージがないでしょうね。一方、ヴァイオリンほどパワーはないんだけど、ヴァイオリン以上に繊細な感じがある。ガーッとパワーを出すよりは、ゆったりと味を出していく楽器なのかなって思います。
胡弓はまだ、やったことがないことが色々あるんじゃないか、とは思ってます。正直、どういう可能性があるのか?って、僕自身まだわかってないんですよね。僕としては、ロック的なテイストにもチャレンジしたいっていう気持ちはあります。正当派は他にいるし、バラードやポップスをそれなりに弾く人はいると思うんで、それじゃない部分も勝負したいなっていう、自分にしかできないことをやったほうがいいなっていうことは感じてます。
だたし圧倒的に思うのは、まだまだ奏者が少ないこと。胡弓でポップスを弾いている人も、まだ少ないですもんね。僕はずっと民謡をやってきたので馴染みはあるんですけど、一般の人の認知度がこんなにも無いのか!っていうのは感じますね。今だに「中国の楽器?」って言われますものね。まだそういうレベルの認知度。これだけ魅力のある楽器は、もっと広まってもいいと思います。
三味線プレイヤーの僕としては、ずっと音が伸びない楽器(=三味線)をやってきているので、胡弓を弾いていると「歌える」楽しさがあります。自分の声に近い感じで弾けるところが面白いですね。
三味線プレイヤーとして常に新しい境地を開き続ける雅勝さんは、胡弓を手にすることで、この先どんな景色を見ようとしているのだろうか?
いつか風の盆で胡弓を弾きたい
人前でもうちょっとイメージ通りに弾きたい(笑)って、まだそこですね。自分のソロライブで、三味線の合間に胡弓を演奏することがあるんですが、まだまだ自分で納得できるプレイではないですね。お客さんの反応は、新鮮な感じはあったかと思います。胡弓の音って、生で聞いたことがある人はまだ少ないですよね。胡弓自体が知られていないですから。プレイヤーも少ないですし。
誰もやってないこと、人がやってないことをやりたいというスタンスで、これからも胡弓と長い目で付き合っていきたいと思います。そういう意味でも、もっと楽器と仲良くなって(笑)ってところからですねえ。まだ舞台慣れしてない。やっぱりキャリアというか、場数が大事だと思います。もうちょっと、精進したいなって感じ。でもその精進も含めて、もっと可能性を追及していくところで胡弓に取り組んでいきます。
あとはいつか、八尾町の風の盆で弾いてみたいっていうのがありますねえ。胡弓といえば、僕のなかではやはり、越中おわらのイメージ。今年はじめて「おわら風の盆」へ行ったんですよ。あの町の中で胡弓を流したい、という夢がありますね。風の盆でいつか胡弓を弾けたら最高だろうなって、思います。
基本情報
雅勝(まさかつ) 千葉県浦安市出身
You tube チャンネル https://www.youtube.com/@tokyosaizensen
Instagram https://www.instagram.com/shamisenplayer_masakatsu/