24歳で民謡歌手の最高峰である内閣総理大臣賞を受賞。民謡歌手としてトップを極めながら、もうひとつの武器として「胡弓」を練習中という優さん。
民謡日本一の唄い手から見た胡弓の魅力と、その可能性について話をうかがった。
インタビュー
それは、まだ日本一になる前の話。幼い頃から民謡を唄ってきた優さんが、唄以外の何か?を求めはじめたのは、高校を卒業した頃だったという。その時、胡弓を選んだ動機や経緯についての話からスタート。
日本全国を知っているからこそ、胡弓の力を実感
2歳から姉・澪(みお)と一緒に民謡教室に通いはじめて、全国大会に参加したり、応援に行くことがよくありました。全国大会の舞台で胡弓が聞こえてくると、会場全体が「あ、富山の舞台だな」って一瞬にしてなるんです。
胡弓が響くだけで、そこが富山の空間になり、時間になる。
そういう風にして、胡弓の力を幼い頃から肌で感じてきました。
全国大会の舞台では、各地の民謡で歌声を競うなか、東北だったら津軽三味線、沖縄だったら三線が響くと、それだけで地域の特色が際立つじゃないですか。
それと一緒で、胡弓が響くと、これは富山だ!って伝わる力が、胡弓にはある、その音だけで、曲の印象が全然違ってくるです。
だから、自分も弾けるようになりたい。全国の舞台でそう思ったのが、胡弓をはじめた理由です。
富山のイメージは胡弓
高校を卒業して、唄以外の何かを身につけたいなあ、と思ったとき、三味線かなって思いもあったんですけど、富山なら胡弓でしょ、みたいな感じです(笑)。
県外の方とお話しさせていただくと「胡弓っていいよね」って、よく言われるんです。
胡弓の音を本場の富山で、八尾で聴きたい、風の盆で胡弓を聴きたいって人はとても多いんです。
日本一に輝く唄声の持ち主でありながら、三味線も胡弓も演奏する優さん。そんな優さんだからこそわかる、胡弓の特長、魅力について尋ねてみた。
三味線が弾ければ、胡弓はすぐに弾ける!?
「三味線は難しいんだよね〜」って言う人は多いけど、胡弓は「スゥ~」って感じで優雅に弾いていらっしゃるので、三味線よりも簡単なのかなあって、実は思ってました(笑)。三味線は空振りして音が出ないことがあるけど、胡弓はそんなことないから簡単なんじゃないかって。
はじめてみたら全然そんなことなくて、ひとつひとつの音を「綺麗に」だすのが、三味線以上に難しい。今もまだまだまだ、って感じ。
音と音の間でずっと続く音を、どう綺麗に響かせるか? そして音を、どう切り返すか? そこが難しく、三味線と大きく違うなって感じます。
音の深さみたいなのが、ちょっとした手の動かし方で変わってきたりとか、やればやるほどハマっていく。理想の音がどんどん遠ざかっていく、やればやるほど、どんどん難しさが分かって、理想のゴールは遠いなあ、という感じです。
胡弓が民謡を知るきっかけになる
私が師事している倉本先生は「やりたいことからはじめましょう」という指導方針です。民謡の伴奏ができたらいいな、と胡弓を学びはじめたので、「おわら節」や「こきりこ」「麦屋節」など、富山の民謡を中心に学びはじめました。
最近は「ふるさと」などの抒情歌をやってます。抒情歌の練習は、民謡を弾くときも活かされる、と感じています。
美空ひばりさんの「悲しい酒」「真っ赤な太陽」なども練習してます。
私が呼んでいただく民謡の舞台はご高齢の方が多いので、そういった選曲になるのですが、若い人にも馴染みがある曲、若い世代が知っている曲も演奏していきたいですね。
若い人に民謡を聞いてもらいたいというのはすごいあるんですが、唄だけだとなかなか難しいところがあるんです。でも胡弓だったら、若い世代の音楽も弾けます。
胡弓を聴いた若い世代が、この楽器は何?となったとき、おわら節などの民謡で使われている楽器、と知っていただけることになります。
胡弓は、若い世代が民謡を知る入り口、きっかけになるのでは、と思ってます。
20代前半で民謡日本一を奪った若きチャンピオンが優さんにとって、改めて、胡弓の存在とは何か?その距離感について尋ねた。
他の人と何が違うか? 私にとってそれが胡弓
民謡の日本一といっても、毎年ひとりずつ増えていく。そうすると、唄以外に何ができるか?が武器になる。私の場合、それが胡弓なんだろう、と思います。私にとって胡弓は、重要な存在ですね、武器として。
どれくらい練習しているか?と聞かれると、、、、唄は毎日、基本的に1時間くらい練習するんですけど、胡弓は毎日はできてない(苦笑)のが現状です、
先生のところへ行く前の一週間くらい前から結構みっちりやるのかな。。一日に一時間、一週間毎日続ける、といった感じですかね。イベント等での演奏があれば、休みの日にまとめて練習したりしてます(笑)。
民謡を知ってもらって次の世代に繋ぐことを使命として取り組む中村優さん。今後の展望についてうかがった。
大袈裟でなく、ステージになじむ音
唄の仕事をいただいたとき、基本的には伴奏を別の方にお願いしてますが、将来的には、自分で弾き唄いができるくらいになりたいな、というのはあります。
中村優ワンマンステージ、みたいなのがあるとすると、もちろん唄がメインですが、胡弓だけの演奏もできたらいいなって思います。
三味線をソロで聴かせようと思ったら、津軽三味線を演奏するみたいな、ちょっと大袈裟な感じになるんですが、胡弓はソロで聴かせて空間や時間にしっくりとなじむ。これは大きなメリットです。津軽三味線は家に眠らせてあるので、いつかは弾きたいと思っていますけど(笑)。
すごく珍しい楽器、その希少性が最大の魅力
胡弓はバイオリンみたいにいろんな曲が弾ける、とても懐が深い楽器と思います。
そして一番の魅力は、富山にしかないってことですね。
私は富山出身だからこそ、他の県にはないものとして自分の武器になるなって思います。
富山にいたら当たり前すぎて気づかないんですが、他の県からしたらすごく珍しい楽器。その希少性が最大の魅力ですね。
基本情報
中村優(なかむらゆう)
富山県富山市出身・1995年10月2日生
問い合わせ・r-yuu.1002@ezweb.ne.jp
■教室情報
・アピアカルチャークラブ/うたって民謡教室