音楽は自分のものではなく与えられたギフト

お知らせ

流行りの言葉でいうと「二刀流」。実のところ、箏と胡弓だけでなく、三味線、十七絃など多彩な和楽器を演奏し、国内外で活躍する岡戸さん。輝かしいキャリアの一方で、自身で教室も運営し、二児の母として子育てにも奮闘する。世界中を飛び回り、和楽器の魅力を発信する岡戸さんに、これまでのルーツと将来のビジョン、そして、胡弓の魅力についてきいた。

インタビュー

ー涙がとまらない、エチオピアでの演奏ー

本当に忙しい時期は、イタリアで三味線を弾いて、2日後にはカザフスタンで胡弓を弾いて、帰ってきた翌日にお箏で広島に行く、というようなスケジュールで動いていました。
移動中の飛行機の中で次に使う楽器の譜面を覚えて、空港からそのまま別の楽器を持って現場に向かう、という感じで楽器を切り替えながら、休みなく動き続けていました。

海外公演で最も思い出に残るのは、エチオピアでの出来事です。エチオピアは、昔は日本と同じように皇帝制度があった国で、日本に対してリスペクトを持っている方が多いと聞いていました。
世界遺産の岩窟教会、そこは、かつて迫害を受けた人たちが身を守るために地下に掘った聖地なのですが、そこで演奏したときのことです。
演奏を翌日に控えた日に高山病になり、倒れてしまったんです。酸素濃度が下がって、体が硬直。意識も遠のいて、命の危険を感じる状態でした。同行したドクターからは「かなり危険な状態だ」と言われました。

そのとき、近くにいたエチオピア正教の方たちが集まってきて「日本から演奏に来てくれた、この子のために祈ろう」と、お祈りが始まったんです。そうしたら何と!それまで感じたことのないような強い風が吹き始め、不思議と呼吸が楽になりました。酸素の数値が上がっていったんです。「これは医学では説明できない」とドクターも驚くほどでした。

翌日には、奇跡的に体調が回復して、無事に演奏をすることに。演奏をはじめた瞬間、2羽の鳩がふと、お箏から飛び立ったんです。演出じゃなく、本当に自然に。箏の後ろでは、子どもたちが木に登って演奏を聴いてくれたり。そんな光景を見ながら弾いていたら、涙がポロポロと出てきてしまって、、、。「生かされているな」という気持ちと、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

この経験から、演奏に向き合う気持ちが大きく変わりました。それまでは「うまく弾こう」とか、「自分がいい演奏をしよう」という気持ちが強かったんですけど、エチオピアでの経験を経て「自分一人で弾いているわけじゃない」と、強く感じられるように。「音楽を届ける意味」を考えるきっかけになりました。

ーすべて神から与えられたギフトー

エチオピアから帰国したら、世界的に有名なサックス奏者カーク・ウェイラムのレコーディングに参加させていただき、とても印象的な言葉をいただきました。「君も素晴らしいアーティストで、自分の技術で音楽を生み出しているけれど、それはすべて神から与えられたギフト」と。「自分が演奏しているというより、そのギフトをお返ししているような気持ちで演奏しているんだね」と。

エチオピアでの出来事と、その言葉が重なって、それまでの感覚が大きく変わりました。自分の音楽というよりも、いろんな環境や人から与えてもらっているものを、音としてお返ししている。そんな意識になりました。

昔は「自分が頑張らなきゃ!」とがむしゃらにやっていたのですが、今はそうではなく、音楽そのものが「与えられたもの」という感覚があります。命を助けてもらった経験や、人の優しさにもたくさん触れてきました。だからこそ、本当に自分ひとりではなく、いろんな人に支えてもらって今がある、と感じるようになりました。
産まれてきた子どものことありましたし、本当にいろんな人に支えてもらって演奏活動ができていると思います。

アフリカ公演を終えて、出産へ。育児と演奏を両立しながら、時間の有限さと支えの大切さを実感。限られた時間への感謝と、周囲への意識が深まり、音楽との向き合い方もより成熟へと向かっている。

ー海外公演にひと区切り、出産へー

海外公演は一年前にスケジュールが決まっていることが多く、一度決まると「行けなくなりました」というわけにはいかない。そういう活動をしている間は、なかなか子どもを持つことに積極的になる事はできませんでした。いろいろなものを背負っていたので「まずはこの活動をしっかりやりきる」という気持ちで動き続けていました。

エチオピアの翌年は、エリトリアへ行きました。エチオピアとエリトリアは、もとはひとつの国だったんですけど、戦争で分裂。両国をつなぐような形で、音楽外交として行かせていただきました。それらの公演が終わったあと、一人目の子を授かりました。演奏活動を産休というときに、コロナ禍が重なり、必然的に赤ちゃんとの時間ができたことは、私にとってすごく大切で良い期間になりました。

2人目を授かった時は、妊娠9カ月まで本番が入っていて、大きなお腹で着物を着て演奏しました。出産後も2カ月後には大きな舞台が入っていたので、赤ちゃんを帯同して、リハーサルの間に授乳をしたりしながら本番をこなしました。
また、生徒さんのお稽古は、休んでしまうと生徒さんの学びが止まってしまうので、産後2カ月後には再開し、ベビーシッターさんに赤ちゃんを見ていただきながら稽古をしました。女性の生徒さんが多く、子育てに理解がある方も多いので、生徒さんにもすごく支えていただいています。

ー子育てとの両立で、さらなる成長ー

子どもたちを授かってからは、時間に対する感覚が大きく変わりました。それまでは24時間を自分のために使えたので、夜中でも思いついたらすぐ弾く、という生活でした。でも今は「限られた時間をいかに有効に使うか」という意識が強くなりました。
そのため、自分が演奏できる時間に対して、これまで以上に感謝できるようになりました。当たり前じゃないんだ、と実感しています。

それもやはり、周りの人に支えてもらっているからこそ。自分ひとりではできないことばかりだと感じています。支えてもらっているからこそ音楽活動ができることを、さらに強く感じるようになりました。子育てと両立しながら、私自身が成長させてもらっています。

幼少期から和楽器と向き合い、師との出会いに支えられ基礎を築いた。ニューヨークでの経験が転機となり、音楽の力と価値を再認識。外から見た日本文化の美しさに気づき、それを極めたい強い意志を持って音楽の道を歩み直した。

ーお稽古は、ずっと一緒にあるものー

お琴の稽古は6歳からはじめました。小学生の頃は、一輪車に乗りながら暗譜の練習をしたり、遊びながら続けていました。お箏をしている子が周りにいなくて「いつもおばあちゃんみたいな歌を練習しているね」なんて言われていました。

胡弓を始めたのは15年くらい前。はじめた頃は、宮城道雄先生の曲を中心に、宮城胡弓(大胡弓)を演奏していました。その後、師匠の影響で小胡弓も習い始めることに。お箏の先生で胡弓も演奏されている方は多くない中で、子供の頃から稽古をみていただいた小池先生が胡弓を演奏されていて私に指導して下さった事は、大変ありがたいことでした。本当に良い師匠に導いていただき、ご縁をいただけた事を感謝しています。

ー一度諦めた道を、ニューヨークで再起ー

お箏を続けながら働いていたころ、体調を激しく崩してしまい、そのときに何もかも辞めて、ニューヨークに行ったんです。そこで津軽三味線の上妻宏光さんのコンサートを観る機会がありました。ステージの真ん中で、三味線一丁で演奏がはじまった瞬間に、会場全体がぐっと引き込まれ、最後は全員がスタンディングオベーション。それが本当に衝撃的でした。鳥肌が立って、涙が自然に出てきました。「日本の楽器って、こんなふうに世界の人を感動させられる力があるんだ」と初めて実感しました。すぐに日本にいる師匠に国際電話をかけて「一からやり直したいです。本気で取り組みたいです」と伝え、帰国しました。

ー海外だからこそ、日本の良さに気づけたー

ニューヨークの2年間は本当に大きな意味がありました。日本にずっといたら気づけなかったことばかりでした。例えば空港で、日本人のサラリーマンの方が「申し訳ありません」と、丁寧に謝っている場面を見たことがあって、周りの外国の方たちはちょっと笑っていたのですが、私はそれにすごく感動しました。相手からは見えていなくても、電話越しに頭を下げて、誠心誠意謝る姿が、すごく美しいと思えたんです。言葉だけなら、誰でも謝れます。でもそのサラリーマンの方は本当に心を込めて謝っていて、相手を思いやる気持ちが、すごくかっこよく見えたんです。そういう日本人の良さや文化について、海外に出たからこそ気づくことができました。日本の楽器ひとつで世界の人を感動させられるということも、海外に行ったからこそ実感できたことでした。

絹糸による柔らかな音と持続音から、独特の揺らぎが生まれ、心に深く響く胡弓。感情をそのまま音に乗せられる楽器と実感してから、その魅力に取り憑かれた。時に自らも涙するほど感情が引き出され、聴き手の心にも強く訴えかける。そのダイレクトに胸に届く表現力こそが、胡弓最大の魅力という。

ー胡弓は感情がそのまま音に乗る。弾きながら泣いてしまうことも!?ー

胡弓をはじめた当初は、お箏の延長というか、三味線と同じような感覚で取り組んでいたんですけど、そうしながらも「もっと上手くなりたい」「もっと弾きたい」という気持ちはずっとありました。子どもの頃からヴァイオリンに憧れがあって「胡弓って和製ヴァイオリンみたい」って思っていました。胡弓を始めたころ「こんなふうに感情を出せるんだ」と新鮮に感じたことを、すごく覚えています。

本格的に胡弓と向き合いはじめたのは10年くらい前。その頃「和楽器アンサンブルジャパン」というユニットを組んで、笙やお箏、十七弦、太鼓と一緒に、胡弓奏者として学校公演などに参加していました。その活動でカザフスタンに行ったとき、現地で出会ったヴァイオリン奏者が「こんな柔らかい弓で音が出るの?」と、胡弓について色々と尋ねてきました。「絹で編んだ糸を使っているんです」などと話をしたら、すごく驚いていました。そういうやりとりを通して、胡弓は擦弦楽器の中でも独特な楽器なんだ、と実感するようになっていきました。

最も魅力的な特長は、持続音が鳴るところ。音を伸ばしながら、その中に感情を乗せていけるのが魅力的だと思います。哀愁のある音色も出せるし、自分の弾きたい気持ちや、そのときの感情がそのまま音に乗る感じがあるんですよね。気持ちが入りすぎると、自分でも胸がいっぱいになってしまうことも。胡弓の音色に引っ張られて、感情がこみ上げてくる感じ。胡弓こそ“琴線に触れる音色”だと思います。

あの少し揺らぐ感じというか、完璧にピッチが決まりすぎない、エッジが立ちすぎない柔らかさが心に刺さるのだと思います。何かがこみ上げてきて、泣きたくなるような。感情がぐっと引き出されてしまうので、演奏中に高鳴る感情を抑えながら弾くこともあります。お箏でもそういうことはありますが、胡弓はよりダイレクトに心に響く楽器。それが一番の魅力だと思います。

コンサートでは「一番印象に残ったのが胡弓でした」と言っていただくこともあって、本当に人の心に残りやすい楽器なんだと感じます。お箏や三味線とも違う、その音色には胡弓ならではの魅力があるのだと思います。だからこそ、これからもっと広がっていく可能性が十分にある楽器だと感じます。

精力的な演奏活動と同時に、教室を運営し、後進の育成にも力を注ぐ。「楽しい」と「大好き」を大切にしたお稽古の場で、合奏や発表会を通じて生徒さんたちとともに成長しているという。生徒さんとの距離は近く、その存在を宝物と感じている。

ー生徒さんは宝物。選んでくれてありがとうー

胡弓はここ10年ほどで、かなり広がっていると感じます。私が胡弓を弾きはじめた頃は、胡弓を知っている人がほとんどいなくて、かなり限られた存在でした。ところが最近は、和楽器自体がすごく身近になってきていて、気軽にはじめられるようになってきたなと感じています。敷居がだいぶ低くなりました。その中でも、胡弓のポテンシャルをすごく感じます。

そんな中で「胡弓をやってみたい」という生徒さんがいらっしゃると、正直すごく驚きます。「なんで胡弓をご存知なんですか?」って、逆にこちらが聞いてしまうくらい(笑)。まだ二胡と間違えられることもありますが、それでも以前に比べたら、知ってくださっている方は確実に増えていると感じます。

教室を選んでいただいている理由としては「実際に演奏活動をしている先生に習いたい」という思って来てくださる方が多いように感じます。お箏の体験で来たけれど、胡弓の音を聴いて「やっぱり胡弓がいい」と変更される方もいらっしゃいます。生徒さんは小学生から、お仕事をされている方、子育てが落ち着いて時間ができた方など様々。教室にいろんな楽器があるので、一緒に合奏ができるところが大きな特長になっています。生徒さんが胡弓を弾いて、私が歌いながら三味線を弾いたり、お箏で別のパートを重ねたりなど、いろいろな組み合わせができます。生徒さん同士でも合奏ができるので、色々な広がりが生まれます。お箏から入った生徒さんが胡弓に興味をもってはじめるなど「他の楽器もやってみようかな」と広がっていく方も多いです。日本の文化や和楽器が好きな方が多いので、楽器だけでなく、着物を着て演奏できるというのもすごく喜んでいただけます。そういう点でも、日常とは違う、非日常を味わえる場になっていると思います。

上達する一番のポイントは「人前で弾くこと」。そのため演奏会や発表会をできるだけ設けています。生徒さんたちは発表会となると、例えば、朝カラオケボックスで練習してから楽器を背負って会社に行ったり、午前休を取ってお稽古に来て、そのまま出勤したり、ということをされています。本番前は、趣味の域を超えて熱血です(笑。

生徒さんには自分の演奏を動画で録ってもらうようにしています。これがすごく大事で、自分で聴くと「こんなに音外してるんだ」とか、一番よくわかります。「全然できてないからもう一回撮ります」って、気づいたら50回くらい弾いていたり(笑。でも、その過程がすごく大事なんです。私が聴いて云々というより、録音することで自分が練習する、そのプロセスこそ、意味があると思っています。
特に胡弓は、お箏よりもピッチがシビアなので、周りの方に迷惑がかからないように、かなり意識してもらっています。音だけじゃなく、動画を見ることで、例えば右手が下がっているとか、左手の肘の位置が上がりすぎているとか、弓の位置がずれているとか、細かいところまで確認できます。

ここだけ聞くと「厳しい!」って思うかもしれないのですが、動画は「先生、上手になったので見てください!」って、生徒さんが自発的に送ってきてくれるのです。先生と生徒だけど、とても仲良し。通ってくださってる生徒さんは宝物。「選んでくれてありがとう」そんな気持ちです。

ー「大好き」「楽しい」をずっと持ち続けてもらいたいー

教室では「大好き」と「楽しい」を一番大事にしています。それがないと続かない。「ここに来るとリフレッシュできるな」と思ってもらえるような、非日常を感じられる場所を目指しています。皆さん本当に「好き」で取り組んでくれています。演奏会前はどうしても厳しくなることもありますけど(笑。

「大好き」「楽しい」を気持ちをずっと持ち続けてもらうため、みんなが知っている曲の譜面を自分でつくって、合奏しています。「ポップスを弾きたい」「身近な曲をやりたい」という方もすごく多い。そういう人のために、自分でアレンジして、さらには、お箏と一緒に合奏できるような形にして、いろいろと譜面にしていきたいです。いつも生徒さんたちに「先生、もっと楽譜つくって」と、お尻を叩かれています。

レコーディングでお箏を演奏させていただくこともあり、胡弓でも何度かレコーディングさせていただきましたが、そういう機会が増えていけばいいな、と思います。古典や所属する会での演奏会をはじめ、胡弓の演奏を近い距離で楽しめるような、身近でカジュアルなライブもしていきたいです。ピアノをはじめ色んな楽器とのコラボレーションを通して、まだ胡弓を知らない人にも広がっていけるような活動をしていけたらと思います。

基本情報

岡戸朋子(おかどともこ)

問い合わせ
https://www.instagram.com/tomoko_okado/

教室情報
文京校(後楽園/春日/本郷)
多摩校(東大和市)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
最新情報をお届けします。
お知らせかたる
シェアする
Enjoy!こきゅう
Translate »
タイトルとURLをコピーしました